陸上競技

私がスポ研に勤務していた時代に「ナースセンターだより」に書いた記事です。
1992年6月号「ナースセンターだより」原文のままです。

フジミックス

前回の続きから

<減量による障害>
女性競技者が減量に成功した場合、初期において一時的に記録が向上する場合がしばしば見られる。このことは、それほど肥満していなかった走者にも起こりえる。しかしながら、この効果が逆に減量に関する確信を競技者およびコーチに与えてしまい、より過度の減量に走る引き金になってしまうことがある。減量が過度になれば、肉体的障害、精神的障害により競技力の低下をもたらすことになる。

(1)肉体的障害
減量が進むと、初めに脂肪組織がエネルギー源として使用された体重減少が起きる。更に減量が進むと、筋肉内のタンパク質が同様に利用されるようになり、筋肉の萎縮が起こってくる。この状態に至ると、もはや競技力を高めることはできなくなる。そしてこのような消耗状態が続くと、タンパク栄養欠乏症と言われる全身性の病気になり、ビタミン欠乏や鉄欠乏を伴い、感染に対する抵抗力が弱まる。もし感染が起きた場合には生命に関わる事態も起こりえる。また内分泌機能の低下が起こり、無月経が続くようになる。女性ホルモンの低下が原因でカルシウム減少が起こり、骨折しやすくなる。


(2)精神的障害
肉体的障害は、減食を中止すれば快復することが可能であるが、減量が原因となって神経性食欲不振症と言われる精神的障害がもたされた場合の快復は困難である。
神経性食欲不振症の原因として、神経機能および内分泌機能に既に何らかの異常を先天的にもっていることではないかとも考えられている。また精神的原因として、その個人の精神的発達が関係しており、それまでの生育歴の中で要因が作られ、そこに何らかの誘因が与えられて発病するとも考えられている。精神的障害要因の一つに「やせの賞賛、ダイエットの関心」がある。精神的障害になる素因を持った女性競技者が、無責任なコーチの「やせろ」という一語が誘因となって、減量を開始した場合に悲劇が起きる。発病は競技者をとりまく環境が誘因になっていることが多い。

<対策>
安全に減量を行うためには、減量を始める時に、減量を行うことが競技力向上のために必要であるかどうか、行った場合にはどこまで減量を行ったらよいかを、事前によく検討しなければいけない。また減量中の競技者の日常生活上の態度、摂食異常の有無を常に観察し、少しでも疑惑が生じた場合には、早期に専門医に相談する決断を持ち合わせていなければならない。

<神経食欲不振症に陥ったトライアスロン選手のその後>
会社からは「健康が第一、会社の陸上部は辞めましょう」と言われたので、現在会社の陸上部は退部している。
これまでに神経性食欲不振症治療のために専門の診療内科に定期的にカウセリングに通っている。「運動は完全にやめなくてもいいが、運動量を考えて行って下さい」と、軽い運動の処方箋をいただいているが、本人にはその処方箋の運動量が少ないようで、なかなか守られていないようである。
食事は会社ではあまり食べないが、家では結構食べるとのことで、体重は当所入院時より4キロ増えており、現在42キロである。
運動は午前7時30分から午後2時30分頃までで、その間走ったり、歩いたり、水泳をしている。1日にこれだけの運動をすると、翌日は疲れて2日間は特に運動をしないで、母親と買い物に出かけるなどして過ごしている。
6月28日の琵琶湖トライアスロン大会に友達から観戦に行こうと誘いがあったが、母親が刺激になることを心配して、本人が風邪を引いていたのを幸いに、丁重にお断りしたようである。
最近、神経性食欲不振症に陥った女子長距離走選手、○○さんが4年間のブランクを経て復帰するまでの過程を感動的に描いたテレビが放映されたそうです。本人はその番組を見ていたそうですが、○○さんはもともと痩せている選手だからと母親に話していたことから自分の病気について認識しているのかどうかは疑問です。

<おわりに>
日本陸上競技連盟、および国際陸上競技連盟は、「ランニングは健康にとって多くの長所をもたらすが、一方否定的な要素が潜んでいる。特に女性長距離走選手の中には心理的な問題から摂食障害をきたし、命を落としているケースがある。これを問題視し、現場の指導者、家族、友達は、選手のこのような心理的問題を認識して予防する役割を果たすことが必要である」と報告している。
実際に当所で1名だが、このような患者とかかわって、深刻な病気であることを痛切した。女性長距離走選手の○○さんが神経性食欲不振症を克服して復帰するのに4年の歳月を要したことから、この病気を治療するのにはかなりの時間と根気が必要である。
女性長距離走選手の競技人口は年々増えている。従って、これからこのような問題をかかえた選手が増えることが予想される。現場の指導者は、競技一辺倒で選手を育てるのではなく、女性としての健康とのバランスを良く考えながら、細心の注意を払いつつ指導していくことが大切である。

【引用・参考文献】
○女子委員会調査部:やせすぎ、それでもあなたは勝てますか?
(財)日本陸上競技連盟 1?19 1992.2


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