愛知県がんセンター

 昭和58年3月に私が医療短大を卒業して愛知県がんセンターに就職したばかりの5月に、喉頭癌で手術を受けられた方々が集まる会の一泊旅行に参加させていただきました。
 その時の体験レポートが、愛知県がんセンター看護研究会発行の会報「みとり」に掲載されたので、ここに紹介させていただきます。

愛友会の一泊旅行に参加して

このたびは看護士として勉強を兼ねて愛友会の一泊旅行に参加させていただきました。
 元善光寺での参拝、水引細工工場での見学、昼神温泉での賑やかな夕食会、ハプニングにとんだ天竜舟下りなど大変有意義な旅行でした。
 そして、私は、この旅行を通じて多くのことを学びました。
 以下、学びとった主な4項目についてご紹介致します。

 【一番目】
 実感として、気管カニューレ、タピアの構造が理解できました。このことは病棟勤務の中でも理解できますが、実際にはタピアには会話専用と喫煙専用の2種類を区別して使用している患者さんがいらっしゃったことや、気管カニューレの洗浄方法、例えば、毎日洗浄する方や一日置きに洗浄する方など、また使用方法に関する考え方、例えば、医師は、気管カニューレをはずしても構わないと言ってくれたが、私はこの方が合理的であると考えるから、一生気管カニューレをつけるなど、患者さん独自、それぞれ特有なものがあったことなどは、多くの患者さんと接してみないとわかるものではないと思います。「喉にもちがつかえても呼吸困難になることはないわい」と冗談を飛ばして笑わせてくれた患者さんにも、なるほどと頷けることが出来ましたし、いっしょに歩いてみて息づかいが荒いのを感じとって、「やはり、えらいのかあ。いや、空気孔は大きいから、見た目よりもえらくないのかも知れない。走ることはできるであろうか。」などなど色々思考を巡らせてくれました。

 【二番目】
 突然、不幸にあわれた患者さんには、人それぞれ感動のドラマがありました。名映画の中には、障害に挫折し、それでも歯を食いしばりながら乗り越えて生きてゆこうとする姿をとらえたものが数多くあります。
 私たちは、それを見て、深く共鳴し、感動を覚えます。まさに、そのことが患者さんにはあったのです。涙ぐましいばかりのお話を聞かせていただき、感動の念に堪えなかったのです。
 突然、喉頭癌(大部分の方が癌であることを認識しており、それでもこの類いの癌は比較的再発は少なく、治癒する率の高い癌であり、生命に支障をきたすことはないと言っておられました。このことに関しては、平然と振る舞っている患者さんを見て、私自身びっくりしてしまったのですが・・・・・)にあわれたことは患者さんにとっては誠に不幸なことであったと思います。しかし、不幸なことは不幸なことで強く乗り越えていってほしいと強く願いました。夕食会において、食道発生で一生懸命カラオケを歌われた方々や一生懸命演劇を演じてくれた方々の姿は、今、精一杯生きている。今精一杯努力している実在ある姿であり、誰しもの感動を呼ぶに違いありません。

 【三番目】
 患者さんを見る周囲の目が、これほどまでに患者さんを圧迫しているとは思いませんでした。
 デパートでタピアを使用して話す患者さんをびっくりした表情で物珍しそうに見入るお婆さん、「馬鹿やろう! 見せ物じゃない!」殴りたくなる衝動を堪え、家族の者に怒りを爆発させる。「家族の者が悪くない。そんなことはわかっている。だから、情けなくて、情けなくて。」と、涙ながら話される患者さん。わかるような気がします。
 物珍しそうに見る周囲の目。それは患者さんには大きな苦痛であり、性格をも内向的、暗いものに歪める危険性を十分にはらんだものだったのです。
 このことに関しては、周囲の一般の方々に多くの問題がありますが、何よりも患者さんに誰にも負けないくらいの強い気負いがないと難しいのではないかと思われました。
 愛友会の一泊旅行は、同じ病気をもった同じ仲間同士が何の気がねをすることもなく、のびのびと自由に楽しく話しあえ、交遊できる点で、特に同じ仲間同士であることが、強い心の励みとなり、生きる喜びを喚起する点において、患者さんにとって絶対必要な企画ではないかと思いました。

 【四番目】
 病棟勤務では、業務上、どうしても医療側と患者さん側との間には、一つの隔たりができてしまいます。いっしょに旅行することによって同じ人間として、納得する所まで打ち解けることが可能となることがわかりました。患者さんを患者として見る限り、患者さんはあくまで患者でしかあり得ず、そこに完全な医療を求めることは難しいと思います。患者さんの切に求めているのは、身近な医師や私たち看護婦ではないかと思いました。隔たりのない、気がねをすることのない同じ人間として持っている共通の概念の中で対等に話し合える庶民的な医師や看護婦、そんな私たちを患者さんは求めているのだとお話をお伺いしている内に強く思いました。

 このような会に参加することは、私たち医療従事者にとって、患者さんをより深く理解する点において、また病棟勤務ではとうてい味わえない経験を得る点で大きなメリットがあると思いますので、ぜひ、このような機会には、医師はじめ看護婦にも同伴することをお勧め致します。

 有意義な旅行は、今後、私は看護士として患者さんの身になって考える医療を進めなければいけないと考えさせてくれました。患者さんの立場に自分の身をおいた看護、そんな看護を推し進めていきたいと思います。

投稿:2006年6月27日
安藤秀樹


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