評論

元 民放TVマンのよもやま話


 前号に続いて、政府・規制改革推進会議の「放送事業見直し」議論についてです。
 放送事業の見直しの主な論点、課題は、

● 放送とインターネットで異なる規制・制度の一本化

● 政治的公平性などを求める放送法の規制撤廃

● 民放の放送設備部門と番組制作部門の分離の徹底

● NHKのインターネット同時配信を本格化

● 外資系企業の参入規制撤廃

● 電波の利用権を競争入札にかける電波オークション導入などでした。

 国民の生活にとって重要な「国民財産の電波」に関わる論点・課題だったのです。

 これほどの論点、課題がある議論であったにもかかわらず、国民から電波を借りて、放送を通じて商売をさせてもらっているテレビ局が、報道・議論をスルーしてしまったのです。今、テレビ局のニュース報道の主役は朝帯、昼帯、夕方・夜帯に放送されるワイドショーですが、議論が行われた4月から6月までの、いずれの民放の時間帯、いずれのワイドショーも「放送事業の見直し」議論の特集は放送されませんでした。ワイドショーは一律右へ倣えで「森友学園・加計学園問題」「日大アメフト部違反行為問題」「日本レスリング協会パワハラ問題」などが集中的に放送されていました。

 これでは、テレビ局が、意図的に「放送事業の見直し」議論について、国民に意識を集中させないように“報道の知る権利”を制限していた、と、うがった見方をされても、いたしかたない、と、感じざるを得ませんでした。

 面白く感じたのは、―― 議論に着手する間際(3/25)に、讀賣新聞が「放送事業の見直し」について社説を掲載しました。その冒頭を抜粋すると「テレビ番組の質の低下を招き、ひいては、国民の『知る権利』を阻害する懸念がある。安倍首相が目指す放送事業の見直しは、問題が多いといわざるを得ない」という書き出しでした。 この讀賣新聞の社説に呼応するかのように、まるで新聞社とテレビ局が示し合わせたかのように、東京のキー局のトップが次々に記者会見を開きました。東京のキー局は自らの“放送“を使わずに記者会見をして”新聞報道にお任せする”ということで済ましてしまったのです。東京キー局のトップが語った内容を、讀賣新聞の記事から一部を抜粋すると、

◆ 3/26日テレ社長「新聞等で報じられている通りだとしたら、民放事業者は不要だと言っているのに等しく、容認できない。強く反対したい」 

◆ 3/27テレビ朝日CEO「民放の実情あるいは実態、歴史的な歩みを踏まえた慎重かつ丁寧な議論を強く求めたい」

◆ 3/28TBS社長「戦後60数年続いてきたNHKと民放の二元体制という日本の放送界を壊すというか、否定するものであるならば、当然私も反対だ」

◆ 3/29テレビ東京社長「視聴者に与えるメリット、デメリットを丁寧に分析し、進めるべき話だ。視聴者を置き去りにしたような議論は、どこかで軌道修正を迫られるのではないか」

◆ 3/30フジテレビ社長「民間放送の存在の根幹を脅かすような形で法改正などがされるのであれば、反対しなければいけない」と、皆一様に懸念の発言をしたのです。

 この讀賣新聞社説、東京キー局トップの記者会見が、4月から始まった「放送事業の見直し」の議論に大きく影響を与えたことは否定できない、と言っても過言ではないでしょう。新聞社とテレビ局が、示し合わせて、放送事業の現状維持(既得権益保持)のために、国民を置き去りにしてしまった、とも言えるのではないでしょうか。国民は、このたびのテレビ局の姿勢を問うべきです。――次号につづく

投稿者:杉浦定行

【読者が作る雑誌オピニオン2018年10月・12月合併号掲載記事】

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