第2回 元 民放TVマンのよもやま話
前号(4月号)で「テレビ局は電波法、放送法に基づいて存在する特殊な一般大衆向けのマス・メディアである。マス・メディアには、新聞、雑誌、インターネットがあるが、新聞法・雑誌法・インターネット法が無い。放送法は特筆すべきこと」と記した。
さて、その放送法について、動きがあった。
政府の規制改革推進会議は4月、放送事業の見直し論議に着手した。安倍首相は「急速な技術革新により、放送と通信の垣根はどんどんなくなっている。大きな環境変化を捉えた放送のあり方について、改革に向けた方策を議論すべき時期に来ている」と、放送と通信の融合に前向きな姿勢を示した。
規制改革推進会議は当初、放送の政治的公平性などを定める放送法4条の撤廃によって、テレビ局・ラジオ局などの放送事業とインターネットなどの通信事業の業務の垣根をなくす方策を検討しようとした。しかし、放送業界からだけではなく、与野党からも批判が相次いだことを受けて、放送法4条の撤廃は放送事業見直し論議の論点から外れたようだ。
放送法4条とは、放送事業者(テレビ局・ラジオ局など)が番組を編集する際に、定められている原則で、(1)公安・善良な風俗を害しない(2)政治的に公平である(3)報道は事実を曲げないでする(4)意見が対立している問題では、できるだけ多くの角度から論点を明らかにするーーーの4点が明示されている。このほか、字幕放送など聴覚障害者や視覚障害者に配慮した番組作りを求めている。
放送法4条の撤廃について、放送業界、与野党の関係者の意見を挙げると(1)放送業界関係者「放送の規制(放送法4条)撤廃より野放し状態のインターネットの規制強化が筋だ」(2)自民党関係者「放送法は政治的な公平性や公序良俗の維持など、大きな役割を担っていることも頭に入れながら、慎重に取り組むべきだ」(3)公明党関係者「放送法4条が果たしてきた役割は重い。公平性を保つ枠が仮になくなれば、商業的な視点で情報を送ることも出てくる。報道という役割が果たし切れるかどうか、非常に懸念を持つ。民主主義の土台は、国民に適切な情報を提供するのが大前提だ」(4)社民党関係者「放送法4条は、偏向的な番組や報道を抑制してきた。世論形成や民主主義の発展に大きな影響を与える問題だ」ーーー慎重な対応が必要だとの認識を示した。
規制改革推進会議の答申には、放送法4条撤廃は盛り込まれない見通しだ。
テレビ局の目的は、放送を通じて、文化の発展、公共の福祉、産業と経済の繁栄に役立ち、平和な世界の実現に寄与し、人類の幸福に貢献することである。
国民はテレビ局に、電波を貸して商売をさせているのであって、テレビ局が国民の公共の利益に、どういうふうに資しているか、を、第一義に考えて、注視しなければならないのであるが、このたびの政府の放送事業見直しの議論も関心を示すべきである。
投稿者:杉浦定行 【オピニオン2018年6月号】
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【杉浦定行プロフィール】
1975年日本大学芸術学部放送学科卒業、同年中京テレビ放送株式会社入社。
TVマンの前半20年ほど、警察、司法、行政、経済、スポーツなどマス・メディアの記者クラブに所属して取材経験を積みながら、情報・スポーツ番組のディレクター、プロデューサーとして報道取材・番組制作の現場部門の業務に従事。
TVマンの後半の20年ほどは、主に管理部門の業務に従事。広告代理店、スポンサー対応の営業部門を経験した後、番組審議・CM考査(マスコミ倫理懇談会全国協議会会員、JARO・日本広告審査機構会員)個人情報監理などコンプライアンス部門の業務に従事。
アナログ放送からデジタル放送への変換時期には、放送監視部門の業務にも従事。
64歳(2014年)夏の終わりに、離職。
独居でペットの老犬と一緒に暮らす高齢の実母と、遠く離れて一人で生活する高齢の義母の二人の母を見守る生活移行へと、踏ん切りをつける。
現在、経験を活かして「視聴者目線のテレビ放送」「地域における介護と医療」「行政と住民自治の在り方」をテーマにして、ジャーナリストとして、取材・調査・研究・考察の活動を続けている。
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