スポ研ナースセンターだより

1. はじめに


当所でバネ股の手術を受けた3例の症例を報告いたします。

2. バネ股について

股関節の屈伸で腸脛靭帯が、 大転子上を弾けるように滑り動く現象をいう。 大転子滑液包に炎症を起こすと疼痛が出現する。 使い過ぎ症候群の一種であり、広筋膜張筋と大殿筋の連結部の筋膜が肥厚し股屈曲時に大転子との間で繰り返しの機械的な摩擦を生じることによって発症するものと考えられる。

【症状】

大転子部に股屈曲時にパチンという音鳴り。
同部に疼痛および圧痛。

【治療】

● RICE処置

● 運動量の減少、ランナーなどでは走法の変更、ストレッチング

● ステロイドの局注、消炎鎮痛剤の投与

● 温熱療法などの理学療法

● 手術

3. バネ股の手術(腸脛靭帯形成術)について


4. 症例紹介

【症例1】

< 患者紹介 >
患者:〇・〇 21歳 女性
スポーツ種目:陸上(長距離走)
スポーツレベル:B(当所ナースセンター判定基準による)
身長:156cm
体重:44kg
生理:3年前よりない

<当所入院までの経過>

平成3年頃から、左大腿後面部に疼痛が徐々に出現する。 針治療、マッサージ、電気、ストレッチ等行うが、症状一向に改善せず。
平成5年になってから、 左足のストレッチングができないほどに痛むようになった。ジョグも引き上げができなくなる。 左大転子部は、 ハードな練習後に、時々痛みがある程度で特に気にはしないでいた。
平成5年4月13日当所初科。 慢性の肉離れと診断される。 平成5年4月16日〜4月28日当所リハビリ入院。
退院時、肉離れの症状改善するも、退院後、早めにジョグすると、同部位に肉離れとは異なる痛みを感じ、満足な練習ができないでいた。当所外来通院する。
平成5年7月当所受診の際、バネ股の症状あるため、「左大腿後面部の疼痛は、バネ股からくるものではないか、あるいは、坐骨神経痛からくるものではないか」と Dr. より言われる。
坐骨神経痛には坐骨神経ブロックを、さらに1週間後に、左大転子部滑液包にステロイド局注する。
坐骨神経ブロック著効する。左大転子部ステロイド局注の効果は不明であった。
「左大腿後面部の疼痛が、バネ股からくるものであるのなら、バネ股の手術をすれば良くなるかもしれない。
ただし、完全に症状がとれてしまう保証はないけれど」とDr. より説明を受ける。
本人、「ストレッチなどいろいろな治療を試みたが、 何カ月間も痛みがとれないので、手術することが賢明な手段ではないか」と考え、左バネ股の手術を希望する。
平成5年8月10日当所入院となる。

入院中の経過


※ 医師より「術後3週〜4週目頃からジョグ開始。術後5週目頃には、かなりジョグできるようになるでしょう」を説明を受ける。

入院中のリハビリ内容


【症例2】

<患者紹介 >
患者: ○○ 16歳 女性
スポーツ種目:陸上(中・長距離走)
スポーツレベル:C (当所ナースセンター判定基準による)
身長:158cm
体重:47kg

<当所入院までの経過>

平成2年頃から、知らないうちに右股関節部位にこすれたような音鳴りがするようになった。 そのうち痛みがでてきたが、放置した。
平成4年4月、近医受診。手術すすめられるが、学校の先生より当所紹介され、
平成4年6月当所受診。
「バネ股」 と診断され、手術すすめられる。
平成4年8月11日当所入院となる。

入院中の経過


【症例3】

<患者紹介〉
患者:〇・〇 19歳 女性
スポーツ種目:バスケット
スポーツレベル:C (当所ナースセンター判定基準による)
身長:175cm
体重:70kg

<当所入院までの経過>

H2年3月頃より、左股関節周囲に疼痛出現する。力がはいらなくなり、踏ん張れなくなった。歩き方もおかしくなってきたため、某病院受診。「疲労からくるもの」 と言われ、内服、湿布にて様子をみる。しかし、症状軽快しないため、当所受診。 「バネ股」 と診断され、手術すすめられる。
H2年5月24日当所入院となる。

入院中の経過


5. 考察

バネ股の受傷機転ははっきりしない。おそらくオーバーユース、股関節のアライメント、股関節の動かし方、体質的な要因などから発生してくるのであろう。ここに紹介した3症例では、知らないうちに大転子部に股屈曲時にパチンという雑音、 疼痛などの症状が出現している。初めはたいしたことはないと思っていると、徐々に症状が増強してくる。
バネ股の手術は、腸脛靭帯と大転子がスナッピングを起こすのを解除する目的で行われる。スナッピングを起こさなければ、 予後は良好である。ただ、症例3のように、手術後、 血腫ができることもあるので、 創の状態を注意して観察していく必要がある。
手術後の経過としては、術後5日〜10日目頃から徐々に股関節のROM訓練が開始となる。
術後2週目頃から、松葉杖なしで歩けるようになり、術後3週〜4週目頃から、ジョグが開始となる。
症例1は、 バネ股そのものの症状はさほどひどくなかったが、 バネ股の手術をした症例である。
手術をした理由は2つある。1つは、肉離れは治癒していたと思われる大腿後面部の頑固な痛みが、バネ股に起因しているのではないだろうかと考えられたことである。もう1つは、将来的にも本人はマラソンをしたいという意向があったので、 バネ股の症状がマラソンを行うことで、 悪化することが予想されたことである。
現在バネ股の手術を受けて大腿後面部の痛みは軽快している。 今後の彼女の経過が楽しみである。

スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1993年8月
診療部 主任看護士 安藤秀樹

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