両足関節の腓骨筋腱を脱臼したスキー選手
1.はじめに
スキー・アルペン選手が16才の時にスキー練習中に右腓骨筋腱を脱臼した。1年後に某病院で脱臼整復手術を受けたが、5ヶ月目に再脱臼した。18才の時に当所にて再度脱臼整復手術を受けた。その後経過は良好であったが、20才の時に今度は左腓骨筋腱を脱臼した。再度当所にて左腓骨筋腱整復手術を受けた。以下に患者の受傷経緯から当所入院中の経過および退院後の経過について報告する。
2.患者紹介
患者:20才 女性
スポーツ種目:スキー・アルペン
スポーツレベル:B(当所ナースセンター判定基準による)
スポーツ歴:
小学生 スキー
中学生 陸上 砲丸投げ 県大会6位入賞
高校生 スキー
競技成績歴:
16才 ジュニアオリンピック 4位
インターハイ GSL(大回転) 7位
性格:控えめ、おとなしい、明朗
アライメント:O脚 2横指、
Q-angle 10°、arch やや 低下
身長:167センチ、体重60キロ
利き手:右 踏切足:右 キック足:右
3.受傷機転
○ 右腓骨筋腱脱臼の場合
昭和62年2月 スキー練習中、右のスキー板をポールに引っかけた。スキー板は外側にひかれ、右足関節はスキー靴の中で三角靱帯が伸長されるように外転して受傷した。
○ 左腓骨筋腱脱臼の場合
平成4年1月 スキー練習中にスキー板が前方で重なり、そこにポールが入ってきた。スキー板はポールを挟み込む形となった。この時に左足が内反するような形で前のめりになって転倒して受傷した。
4.当所入院までの経過
○右腓骨筋腱脱臼の場合
受傷翌日:大会に出場する(7位)。
大会後 :旭川某病院受診。右足関節の筋が伸びていると言われてギプス固定を受ける。4週間ギプス固定の予定であったが、国体があったので、2週目でギプスを除去して、大会に出場した(9位)。
昭和62年7月:川崎市某病院受診。手術しない方向で、11月以降パッドで押さえながらスキーをしていた。
平成1年3月:パッドで脱臼感が押さえきれなくなった。
平成1年6月2日:川崎市某病院で右腓骨筋腱整復手術を受ける。
平成1年7月中旬:自転車、ランニング始める。
平成1年9月20日:スクリュー3本の抜去および右腓骨筋腱支帯縫縮手術を受ける。
平成1年10月17日:学校で歩行時友人に右足外果を踏みつけられた。その後、外果最下端で脱臼感出現。
以下省略
○ 左腓骨筋腱脱臼の場合
受傷直後(平成4年1月14日):アイシング
受傷翌日:テーピングと鎮痛剤を内服してインカレに出場。
GSL(大回転)14位、SL(回転)転倒
平成4年1月18日:当所受診。手術勧められる。
平成4年2月1日:当所入院
5.入院中の経過
○ 右腓骨筋腱脱臼の場合
平成2年6月18日:当所入院
平成2年6月22日:右腓骨筋腱脱臼整復術(支帯形成術、Du Vries法)受ける。軽度底屈位、内反位にて膝下ギプス固定。
以下省略
○ 左腓骨筋腱脱臼の場合
平成4年2月1日:当所入院。脱臼感のためやや跛行気味。
平成4年2月3日:左腓骨筋腱脱臼整復術受ける。
以下省略
6.退院後の経過
○ 右腓骨筋腱脱臼の場合
平成2年8月24日(術後63日目)
ランニング:70%
ジョギング:SLDもOK
サイドステップでのtoeひっかかり感なし。
術後4ヶ月目:80%スピードでのランニング可能。
長距離走疼痛なし。
ハイパワー測定時、ペダルを引き上げる際に疼痛あり。
術後5ヶ月目:雪上練習開始。
術後6ヶ月目:スキー大会に出場。
SL(回転)
1レース目 8位
2レース目 転倒
※ケガへの恐怖感あり。
術後7ヶ月目:学生チャンピオン大会
SL:4位
GSL:8位
SGSL(スーパー大回転):2位
※ケガへの恐怖感なし。
以下省略
○左腓骨筋腱脱臼の場合
平成4年7月20日:当所リハビリ合宿(陸トレ)
以下省略
7.おわりに
外傷性腓骨筋腱脱臼は稀な疾患である。特にスキーにおいて発生しやすいが、全スキー外傷に占める割合はさほど多くなく1%の頻度と言われている。まして今回の症例のように両足関節とも受傷するケースは極めて稀である。
患者は2回目に受傷した時、「今年のスキーは滑れないと確信した」と語った。ショックは大きかったが、治療に専念しようと気持ちの切り換えが早くできたことは幸いであった。
手術後の経過は極めて良好で、手術6ヶ月目に大会出場を果たし、以後各大会において好成績を収めた。
旧(財)スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより
元 診療部 主任看護士 安藤秀樹