スポ研ナースセンターだより

1. はじめに


先月に引き続き今月も足部楔状骨間離開の症例を報告します。 平成3年に当所で初めて楔状骨間離開の手術を行った患者さんで、アンケート調査から主に退院後の経過について報告します。 今後の参考になればと思います。

2.患者紹介

患者:○○  33才 (当時入院中) 男性
スポーツ種目:陸上 (長距離走)
スポーツレベル:D (当所ナースセンターの判定基準による)
身長:162cm  体重:56kg

3.受傷機転と当所入院までの経過

H3年10月10日 ロード走で急に左折しようとした際に、 右足を捻って受傷。
H3年10月14日 当所受診。 右足部楔状骨間離開と診断されて手術勧められる。
H3年10月15日 当所手術目的にて入院となる。

4.手術の内容

内側楔状骨と中間楔状骨の間の靭帯が完全断裂していた。および舟状骨と内側中間楔状骨の間の靱帯が完全断裂していた。 そして内側楔状骨からは剥離骨片をつけて靱帯が断裂していた。これらの損傷していた靱帯を縫合。
一部靱帯欠損部は、キルシュナー鋼線で楔状骨間に穴をあけ、 pull out。 最後に内側・中間楔状骨間をキルシュナー鋼線で一時的に固定。


5.入院中の経過

H3年10月15日 当所入院
H3年10月16日 手術 右下腿~足部ギプス固定
手術後1日目 松葉杖歩行 (患肢免荷) リハビリ開始
手術後5日目 キルシュナー鋼線入れ直し
手術後2週目 ギプスカット 全抜糸 退院

6.手術後療法 (退院後) のプラン

手術後4週目 1/3荷重
手術後6週目 キルシュナー鋼線抜去  1/2荷重
手術後8週目 全荷重
手術後8週目 ステアマスター 傾斜板開始 (本人より)
手術後9週目 ロードレーサーにて約1時間のトレーニング開始 (本人より)
手術後9週目 プールでトレーニングするもバタ足はできず (本人より)
手術後12週目 ジョグ開始

7. 退院後の経過 (アンケート調査から)

○ ジョグを開始したのは、いつ頃ですか。

H4年1月13日 (手術後12週目を過ぎた頃) レントゲンの結果、 ジョグ再開の許可を主治医からいただきました。 「1日おきに約3km」。 待ちに待った許可でした。 翌日から走りました。3kmも走ると、手術した箇所の痛みがひどくなり限界でした。

○ ランニング(ジョグより早めの走り)を開始したのは、いつ頃ですか。

H4年1月中(術後3カ月目頃)は、1回のランニングが約3km。 同年2月に入ってから5kmに伸び、同年2月中旬(術後4カ月目)には、10km走れるようになりました。しかし、手術した部位をかばって走っていたために他の部位を痛めることもありました。走る頻度は、約1日おきでした。

○ ダッシュを開始したのは、いつ頃ですか。

不明です。

○スポーツ復帰 (最初の試合出場)は、いつ頃ですか。

受傷後初めて出場した大会は、H4年3月8日 (手術後5ヵ月目)の桑名シティマラソン10kmの部でした。 ゴールタイムは、38分30秒で、自己ベストより3分余りも遅いタイムでした。

〇 完全にスポーツ復帰したと確信をもてたのは、いつ頃ですか。

手術後16ヵ月目のH5年2月21日に青梅マラソン30kmに出場して、1時間53分で完走できた頃のことです。このコースでの自己ベストを3分ほどオーバーしていましたが、手ごたえの感じられるレースであり、しかも足の痛みは、ほとんど感じられませんでした。

○ 痛みがとれたのは、いつ頃ですか。

手術後5ヵ月目のH4年3月頃には10kmくらいの距離のランニングであれば手術した部分の痛みは起こらなくなりました。 しかし、気候がよくなったのと、復帰を薫る余り、「走行距離が増える→患部を痛める→休む」の繰り返しが2カ月ほど続きました。その時に威力を発揮してくれたのがジェットマッサージでした。研究所にあるバイブラバスのように砲のでる機器です。 走って痛めた患部に泡を当てると、血行がよくなるのか痛みも和らぎました。 疲れた筋肉にも効果があるので、今でもよく使用しています。

○ 腫れがひいたのは、いつ頃ですか。

ギブスカットしてもらって退院した際は、足が倍にも膨らんでいるようでショックでしたが、徐々に腫れはひいて、H4年1月末頃(手術後3.5ヵ月目)には、ほぼ正常に戻っていたと思います。しかし走りすぎて一時的に腫れることはあったと思います。

○しびれがとれたのは、いつ頃ですか。

しびれは当初からあまり感じていませんでした。ただし、「いたみ」と「しびれ」の区別がつかずに混同しているのかも知れません。

○一番悩んだことは、何ですか (例えば、果たして走れるようになるのか心配であったとか)。

入院中は少し不安でしたが、リハビリによって、主治医の言われた通りに回復していくので、復帰を信じていました。手術後よりも手術前の不安の方が大きかったです。「冬場になると手術をした所や骨折した所が痛む」という話をよく聞いていたからです。でも今までのところ全くそのような事はなく、大変感謝しています。

○ 手術後、記録が更新した種目・大会があれば教えて下さい。

記録を更新したものはありません。年齢的 (36才)にピークを越えているからだと思います。
3年前にケガさえしなければと、受傷したあの日のあの1歩を悔やむことはよくあります。H3年(受傷した年)は、受傷するまでは、30km、フルマラソン、富士山登山競争大会と立て続けに長距離種目で自己ベストをだした年でしたから。

○ 今後このような手術を受けられる選手に何かアドバイスでもあれば記載お願いします。

やはり焦らずリハビリに専念することが大切だと思います。僕のような市民レベルでさ焦って少し復帰を遅らせた感がありますから、競技レベルの選手ともなればなおさらの事だと思います。復帰を遅らせるだけならいいのですが、無理をして二次的なケガでもしたら、もっと悲惨です。
余談ですが、スポーツ報道を見聞していて、「ケガから復帰してきた選手」というのを知ると、この選手も、「苦しいリハビリを乗り越えて、ここまではい上がってきたんだな」と少し違った目で見ることができるようになりました。

8. 考察

この選手が当所で手術してから、 1年ぐらい経ってから、 ある市民マラソン大会で彼に会ったことがあります。この時は、手術した箇所には熱感と腫れが少しでしたがありました。
まだ本調子ではない彼をみて、このケガの手術後のスポーツ復帰への道のりは、 かなりきびしいものがあると感じました。
ところがアンケートしていただいたところでは、意外に早くスポーツ復帰を果たしていた(術後1年4カ月目)ことを知り、大変嬉しく思いました。
最も彼に感謝したいと思ったのは、 彼が復帰を信じていたことでした。
スポーツ選手にとって、 復帰を信ずることがいかに大切であるかを痛感します。
余談ですが、 足部楔状骨間離開のケガを発見するのは容易ではなく、一般の病院では見逃されることが多いようです。治療は、安静にしていても一旦損傷した楔状骨間の靭帯が治るわけではないので、手術が最善の治療法ではないかと思います。
彼のスポーツ復帰の状況をみていますと明るい見通しが見えてきました。
今後このような手術を受ける選手に大きな励みにでもなればと思います。
先月当所で楔状骨間離開の手術を受けた二人の選手の退院後の経過が楽しみになってきました。
今回このようなアンケートに協力して下さった彼に深く感謝申し上げます。

スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1994年8月
診療部 主任看護士 安藤秀樹

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