スポ研ナースセンターだより


ケガとの戦い

サッカーワールドカップたけなわの今月、 皆さんは熱く燃えたことでしょう。

医療従事者として気になる選手にイタリアチームのロベルト・バッジョ選手がいました。
彼は18歳の時に試合中に右膝靭帯切断の大ケガをし、1年間試合に出場できない経験をしました。
それ以来ずっとケガと付き合ってきました。
本大会では右足アキレス腱の痛みをひきずりながらの出場でした。
決勝トーナメントの対ナイジェリア戦では、右足の痛みをかばうあまり、 左足がつってしまいました。
しかも1点リードされたままの残り2分。 絶対絶命のピンチの中で彼は奇跡的ともいえるゴールシュートを決めました。
さらに対スペイン戦でのゴール前の彼のプレーは、足の痛みを感じさせないほどに鮮やかなものでした。
医者からは、「このまま試合に出続ければ、 将来に渡ってプレーできなくなるかもしれない」と警告していました。
しかし、 彼は試合に出続けました。
準決勝の対ブルガリア戦では、足の痛みで走れなくなるかも知れないという危惧から、前半20分過ぎに彼は正確無比なゴールシュートを2回放ちました。
しかし後半20分過ぎたところで右太ももに肉離れをおこし、負傷退場しました。
試合は、彼の得点した2点を持ち越して2ー1とイタリアチームが勝利しました。
心配なのは彼の起こした肉離れです。
肉離れは2〜3日で治るケガではありません。
決勝に彼は出場してくるのでしょうか?

果たして彼は決勝に出場してきました。

彼の足は動く走る、 ボールを蹴る。

一体彼のケガはどこに影を潜めてしまったのでしょう?

この機敏な動きとパワーは一体どこからくるのでしょう?

猛暑の中でケガと戦い、 そして6試合を戦い抜いてきた彼は、もうとっくに体力の限界を越えていたのでは?

本当に本当に不思議です。

ブラジルにしろ、 イタリアにしろ決勝に辿り着くのは、並大抵のことではありません。

決勝戦で勝利の女神が微笑むのはブラジルかイタリアか。

とうとう決勝戦はPK戦にもつれこんだしまいました。

最終バッジョ選手のPK。
渾身の力を込めて放ったシュートは無情にもクロスバーを大きく外れた。
神がかり的なプレーはこのときついに潰えた。
そしてこの瞬間にすべてが終わった。
そしてブラジルチームは歓喜に満ちた。
バッジョは語った。
「体力はすでに使い果たしていた。 ただ力一杯蹴るしかなかった」と。

スポーツ医科学研究所に勤務する私は、果敢にプレーする選手たちの壮絶な試合を見せつけられて、 整形医学的見地からみて、たとえ医師が、プレー続行は不可能という宣告を選手に告げたとしても、まずこのようなビッグな大会では選手に試合出場を断念させることは、もはや出来ないように思いました。
選手は医師の反対を押してでも、無理をしてでも試合に出場するように思います。
そして選手は普通では考えられない見事なプレーを演じてくれます。

精神力と執念が、ケガを克服してしまうのでしょうか。

これは奇跡でしょうか?

神のなす技でしょうか?

スポーツ医・科学研究所は、サッカーワールドカップでケガをおこした超エリート選手に対しては、どう対処すべきでしょうか。

そんなことを色々考えさせてくれたワールドカップでした。


スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1994年7月
診療部 主任看護士 安藤秀樹

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