スポ研ナースセンターだより

入院患者同士の男女交際および当直時における入院患者の対応について


1. はじめに
当直勤務の看護婦は一人である。 一人の看護婦が入院患者 (全床なら19名)をどこまで責任をもって管理したら良いのであろうか。 現場で働く看護婦の実情から、 悩み、考えさせられたことがあったので報告する。

2. 現在の入院規則のいきさつについて
一時期、 看護婦が深夜若い男女 (入院患者)が真っ暗闇の面会室で何やらしているのを目撃したことがあった。患者はいきなり照明をつけられて驚いたであろうが看護婦も驚いてしまった。 以来、看護婦の患者の見る目は変わった。 「これは絶対にいけない。生半可な管理では絶対にだめなのだ。もっときびしく管理しないと絶対にいけないのだ」との思いを強固なまでも強くした。
彼女 (看護婦) らは深刻であった。
『ここには中学生もいる。もし中学生の女の子が○○でもしたらこれは大変である」
彼女らはきびしい表情で夜間の管理について話し合った。
当初、私は状況を十分把握できていなかったので、何故これほどまでにも厳しくしようとするのだという気持ちがしてならなかった。

入院規則はきびしく改められた。
● 入院患者は異性の部屋には絶対に入らないこと!

● 消灯以降は絶対に他人の部屋に入らないこと!

以上の規則が守れない患者は強制退院していただく。

看護婦で注意すべき点は、
「消灯後に面会室、倉庫、外泊している患者の部屋は必ず施錠する」とした。
以後、入院してくる患者からは「厳しい入院規則」 と言われたこともあったが、とりたてて目立った問題は起こらなくなった。

3. 管理には程度があるのではないか。
1人変わった入院患者が入院してくるととんでもないことが起こったりする。 良い雰囲気であった病棟がおかしな具合になり、看護婦はその1人の患者に随分振り回される。
スポーツ選手が真剣に治療に専念していれば起こりそうにもないことが起きるのでやりきれなくなる。 『もういいかげんにしてほしいわ」 と思い、 『もう何回注意しても同じことだからもうどうだっていいわ」と開き直ったりもしたくなる。

今回全くおかしなことになってしまった。 深夜に高校生の女の子が社会人の男性 (A)の部屋に入ってひそひそ話をしていたのだ。 看護婦は日頃から問題となっている患者は目をつけているので、「たぶん』 と思って、ドアを開けたら、女の子があわててベッドの下にもぐりこんでしまったのだ。 どうして深夜に (A) の部屋に入ったのかと問うてみると 「外泊させてもらえなかったこと、 リハビリで悩んでいることの相談がしたかったこと、おなかがすいていて (A) の部屋に食べ物があったこと、自分の隣の患者と馬があわないのでその人が寝るまで (A) と話をしてまぎらわしたかった」と言う。 問題は (A) である。「俺の部屋に食べ物があるから入ってこいよ」と誘ったらしいのである。 (A) は 『翌日退院だから俺のせいにしておけば良い」との気持ちがあったようだ。 (A)に話を尋ねると、
「彼女は相当悩んでいたし、 相談したいことがあるというので話にのった。 彼女はおなかがすいているというので、たまたま自分の部屋に食べ物があったので自分の部屋に誘った。
今回は確かに入院規則を破って悪いと思っている。でも安藤さん、 安藤さんが主任さんだから言うんですがね。ここの看護婦は陰険ですよ。今回僕が余儀なく退院させられたのは看護婦のせいなんです。 僕は今回の退院は納得していないです。夜寝つかれなくて自動販売機まで行ってジュースを買って、たばこを吸っていたんです。もちろん看護婦に一言いってからくるのが良かったかもしれないけど、 看護婦さんも寝ているかも知れないのに、そんなことで看護婦さんの手をわずらわせるのも良くないでしょう。 そしたら看護婦がきて、『入院規則を守れない人は困ります。他の人に迷惑をかけるのはよくないでしょ!』 ときつく言うんですよ。
僕は 『夜トイレにいくのと同じだ。それに誰にも迷惑をかけていない」と言ったんですけど、 わかってもらえなかったです。 そういうようなことを看護婦は逐次ドクターに陰口するものだから、全部自分が悪くなって強制退院ですよ。
患者を管理するのにきびしさも必要かもしれないけど、 納得のいかないきびしさはナンセンスですよ」 と言う。

(A) の話を聞いていて私は困った。 (A) の言うことも一理ある。 (A) の気持ちもわからないわけではない。 でも確かに (A) は問題なのだ。 (A)が入院してきてから病棟はおかしくなったのだ。 『早くいなくなってほしい』という気持ちが看護婦の中にあったようにも思う。 いいかげんな男、 お調子者と映った。

さて、彼の言い分に対しての私の返答だが、 「あなたの言うことも一理あるように思う。 でもあなたにも問題があるのではないか。 入院してくる日に車を運転してきてはいけないと知っていたにもかかわらず車できたこと (本人は友人に乗せてきてもらったと言っている)。 予定の時刻に遅れて入院してきたこと。 車で外出しないように車のキーをこちらで預かったにもかかわらず、 なぜだか駐車場内で車が移動していたこと (自動車屋に修理のためにもっていってもらっていたからと本人は言っている)。
夜間消灯過ぎに2日連続して電話していたこと (会社の上司にどうしてもこの時間帯にしか連絡がとれなかったと本人は言っている) などあなたが問題とみられるような行為をするものだから看護婦もあなたに対して不信感をいだいていったのではないか。
あなたがこんなふうになったのもあなたが余程信頼されていなかったからだと思う。
まあ誤解もあったかも知れないけど、 良くないことが重なったんだろうな」と返答した。

4.チーフとしてどう対処していったら良いのか。
私は本当に困った。 (A) の言い分だけを聞いていたら、同情したくなる。だから、患者をかばうような気持ちにもなってしまった。 しかし、 それがいけなかった。 看護婦から 「統一した見解のもとで患者をみてくださいね」 とはっきり言われたのだ。要は看護婦が患者に「こういうことはしてはいけないですよ」と注意してきたことが、私が患者の言い分に対して 『ふんふんそれもそうだな』 などと頷いたりすると患者は「主任である安藤さんは看護婦のいうようなことはしないと言っていたぞ」と看護婦に言うのである。 そうすると看護婦は今までとってきた患者に対しての対応が覆されてしまうので看護婦の立つ瀬がなくなってしまうというのだ。 もっともなことである。
「今まで主任さんは看護婦をかばったことがありますか。 肩をもったことがありますか。 一度だってないでしょう」とはっきり言われてしまった。 正直言って言われるまでそのようなことは考えたことがなかった。 『確かにそうだ』と私は反省した。 『これではメンバーはついてきてくれないな。どんなに患者から看護婦に不満があって同情を求められてくることがあっても、 まず第1に看護婦 (医療従事者) をかばう。 肩をもつようにしなくてはいけないのだ」 と思った。

5. 患者の看護婦への不満
(A) は主治医から退院を言われた。 (A) は強制的に退院させられたと思っている。 それは看護婦のせいだと言っている。「看護婦は人を見下した言い方をするきびしさに加えてすぐドクターに告げ口をするなどやり方が陰険である。 状況もよく知らないで頭ごなしに一方的に 『あなたが悪い』 ときびしい口調で注意する。 大人だったら判断してものの言い方を考えてほしい」 などとかなり手厳しい。
今までに入院してきた患者でこんなにもはげしく看護婦を非難した患者はいなかった。どうしてこんなことになったんだろう。(A)だったからこんなことになったんだろうか。

(A)は前回も当所に入院している。この時の (A) の入院態度は良くなかったようだ。 (A)が今回入院するにあたって看護婦は「あの(A)? 彼は問題よ」と困惑した。 入院する日, (A) は遅れて入院してきた。 しかも車で。 もうこの時から看護婦の (A) に対しての印象は悪かった。
それからはやたらと (A) の入院態度の問題点ばかりが目立つようになってきた。
『困ったものだな』 と私は漠然と思っていた。

私が4日間の休みをいただいた後で出勤した朝に看護婦から 「主任さんが休みだった間に大変なことが起こったんですよ」と言われた。 私は正直言って 『なんだよ。 休み明け早々に。 勘弁してくれよ』 と思った。 看護婦の申し送りで (A) が入院態度が良くないということで急遽退院となったことが問題だとわかった。
また別に深夜に女の子が (A) の部屋に入っていたことを知り、 なんだか病棟が乱れはじめているなと感じた。
その日(A)からも個人的に呼び出され「安藤さんがいたらこんなことにはならなかったんです。 看護婦が状況もよく知らないで一方的に僕が入院規則を破っているというように責め、 ドクターにその都度、「(A)は入院規則を破っている」と報告するらしんですよ。 僕は主治医に呼ばれて退院を言われたけど、 心から納得していないです。 主治医にも看護婦のことを余程言おうかと思ったけど、 安藤さんの主任の立場もあるものだから、 安藤さんに話してから主治医に言ってもらうのが筋だと思って黙っていました」
「わかった。 あなたの気持ちも主治医に話しておく。でもこんなにもあなたが看護婦を悪く思っているとは知らなかった。 確かにあなたの言われる通り、 その時の看護婦の対応はまずかったように思う。 看護婦にはそれとなく注意しておく(このような患者の言い分に同調するような対応の仕方は困る。 まず第1に看護婦をかばって下さいと看護婦から指摘された)。 だけど、 昨夜女の子を自分の部屋に入れたのは良くなかった。 社会人の一般の大人だったら、普通は 『消灯すぎているから帰れ」と言うのじゃないか。 あなたのそういう所が問題とされるところだと思う。 いずれにしてもあなたのいる今の病棟の雰囲気は良くないので、申し訳ないが合宿所でもいいから出ていった方が良いと思う」
「ここの看護婦は相手にしたくないので、 こちらの方からもでていきたい。 ただ自分が一方的に悪いと思われて退院となったことには納得できないです」
(A) の話を聞き、こんなにも集中的に看護婦を非難しているのには驚かされた。
今回はちょっと干渉しすぎたんじゃないかなと思われた。

6. これからどのように対応していったら良いのだろうか。
入院患者が皆、素直に看護婦の言うことを聞いてくれれば問題ないのだが、 実際にはそういうわけにもいかない。 今後 (A) のような患者が入院してくるとも限らない。
そんなときのためにもどのような対応をしたら良いのかを考えなければいけない。
私はまず第1に少し患者に干渉しすぎたのではないかと思われたので、 下記のことをメンバーに心掛けるように話をした。

○ 消灯過ぎに見回った時に患者が部屋にいなかった時、慌てない。 『他の患者の部屋にいるのではないか」とすぐ疑わない。しばらく待つ。しばらく待ってからトイレ、面会室、倉庫、 廊下を確認する。それからロビー、電話室、 自動販売機の所を見回る。 それでも見つからない時に、他の患者の部屋にいないかなと疑う。

○ 消灯過ぎに患者が自動販売機の所で、タバコを吸っているのを見かけた時、 「消灯を過ぎていますので、はやくお休みくださいね」 とさらりと注意する。 常識ある人だったら 『いけないことだな』と思って納得してくれるだろうと思う。 そこを「入院規則を守れないような人はだめですから」とか強く言ったりすると、「トイレにいくと同じような気持ちできたのにどうしてそんな言い方をされるのだ」とかえって反感を抱かせるので良くない。患者は眠たくなれば自然に部屋にかえって寝るだろうと思う。 そこまで干渉する必要はない。問題なのは他の部屋の患者に「おい、お前もこいよ」と誘って自動販売機のところでたむろすることである。もしそのような場面に遭遇したらその時は厳重に注意する。

○ 消灯過ぎに患者が自動販売機の所にいて、「はやくお休みくださいね」とさらりと注意してきた後で、 患者が部屋に戻るまで見届けないといけないと思わなくても良い。

○ 消灯過ぎに患者が電話をかけているのをみかけた時、「消灯を過ぎていますので、はやく切り上げてお休みください」と注意する。 入院規則を破っているのどうのでワアワア言わない。 もし次の日も消灯過ぎに電話していたら、 ちょっと注意して翌朝に主任である安藤に報告する。 安藤から患者に注意する。

○ 消灯過ぎに患者が電話することは原則として禁止する。しかし絶対的なものではない。やむを得ない事情の場合は許可する。

○ 消灯過ぎに患者の部屋に枕灯がついていても注意しない。もし、看護婦が二人部屋で一人の患者が枕灯をつけていて隣の患者が眠れなくて困っているんじゃないかなと思ったら、翌朝、その患者に 「隣の患者さんが枕灯つけていたようだけど、それで眠れなくて困っていたことはなかった?」と尋ね、 もし困っていたら、 隣の患者に「隣の患者が迷惑している様子なので夜間の枕灯は遠慮してもらえないかしら」 とそれとなく注意する。

○ 消灯過ぎに、廊下を歩いていて、患者の部屋からひそひそ話が聞こえていても注意しない。問題なのは隣の部屋に聞こえるほど大きな声で話している時である。
その場合は、「消灯すぎているのだから、隣の部屋の患者さんも寝ているので、静かにして寝て下さい」と注意する。

○ 夜間痛みがないか心配で患者の部屋を覗かなくてよい。 消灯の時に「今日の夜は痛くなりそう? もし痛くなったら遠慮しないでナースコール押してくださいね」と話をしておくだけで良い。 変に心配して看護婦が休めないようでは困る。

○ 夜間患者の部屋を覗く時は、ドアをコンコンと軽くノックしてから覗く。 患者が起きると思ってノックしないで覗くことはしない。

○ 消灯後、22時30分から23時30分の間にトイレ、廊下、 電話室、 自動販売機を見て回る。

以上のような対応で様子をみてみる。もしそれでまた問題があるようだったらそのときまた考えてみる。

7. おわりに
当診療部はスポーツでケガをした選手がスポーツ復帰を目的として入院する施設である。 真剣にケガの克服に努めることが大切である。入院患者はこのことを自覚していただく必要がある。 そういう気持ちであれば夜間他の患者の部屋に入ったりすることはないように思う。
しかし、実際には今回のようなことが起きるのでどうしたら良いのかと困惑する。 もちろん患者の自覚が足りないのであろうが、そのことばかりを期待するのは虫がいいようにも思う。 どこで歯止めをかけるか。 しかし、あまり管理、 管理と押さえつけても、監獄にいれられたようで かえって患者の看護婦に対する不満を助長させることになりかねない。
今日は誰々さんが当直だから、 あの看護婦はこの時間帯には巡回にこないからこの時間帯にこっそり抜け出そう。 看護婦は看護婦であの患者はこの時間帯は部屋にいると思うけどそのうち部屋から出ていくであろうから今日の巡回の時間帯をずらしてみようかなどと考える。 患者と看護婦のいたちごっこが始まる。これでは看護婦は疲れる。私たちはそこまで管理する必要があるだろうか。 管理には限度があるように思う。

今月入院患者のご紹介

ラグビー部員大腿血腫にて再入院
H3.12.26 当所退院。 [退院後貸し出したCPM にてROM 訓練を自宅で行うことにしていたが、 痛くて実際にはほとんど実施できなかった。日毎に腫れがひどくなっていった。
H4.1.6 当所外来受診。 ROM=0°~45°とかなり制限があった。
H4.1.9 吉田病院にてMRI検査受ける。
H4.1.16 MRI の結果、 筋層下に血腫あることが判明。 当所手術目的にて入院となる。
H4.1.17 左大腿血腫除去手術 (腰椎麻酔)を受ける。
H4.1.29 退院。 ROM=0°〜142°と改善。

旧 (財)スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1993年1月
元 診療部 主任看護士 安藤秀樹

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