スポ研ナースセンターだより

1. はじめに


当所開所以来、足底筋膜炎で当所に入院した選手は、 今回の症例を含めて11例、その内8例が当所で手術を行いました。
手術した8例の内3例は退院後に調査を行いました。
その結果では、3例とも退院後の経過は良好でした。
現在11例目の症例にあたる女性の中長距離走選手が入院中です。この選手は、両足底筋膜炎の手術を一度に行いました。このような症例は当所では初めてでした。 今回この選手の現在入院中までの経過を報告します。

2. 患者紹介

患者:○ ○  23才  女性
スポーツ種目:陸上 (中長距離走)
スポーツレベル:C(当所ナースセンターの判定基準による)
スポーツ歴:中学時代から現在にいたるまで陸上・中長距離走
競技成績歷:
800m 2分13秒6
1500m 4分26秒
3000m 9分47秒 3
性格:温厚
身長:166cm
体重:60kg (入院時)

3. 受傷機転と当所入院中までの経過

大学2年 (20才) の夏に行われた合宿(2週間)に参加したときに両足底部に疼痛が出現した。最初は、走り始めに痛みがあっただけだったが、合宿も終わりに近ずいた頃には、歩行にも痛みがでてきた。朝の起床時の第1歩は非常に痛みが強かった。
その後1カ月間は、ジョグしながら様子眺めていた。
しかし一向に症状軽快する様子なかったために同年10月頃から鍼灸に通院するようになる。鍼灸にて一時的に症状和らぐもこともあったが、根本的に良くなることはなかった。
大学3年生のときに練習靴に足底板を入れて走ることを試みたが、 特に効果なかった。練習はジョグ程度しかできなかった。
大学4年生の時に当所受診したが、当時の住まいが、東京と遠方なため、 当所リハビリ通院できずにそのままとなる。
本年6月 (社会人1年目)、 京都の某医院にて下腿に注射する治療を4回受けた。初回の注射では、10日間ほど足底部の疼痛は消失したが、回を重ねるにつれて効きが悪くなっていった。
本年8月9日当所受診。リンデロン注射・パッドなどを試みたが、決定的な効果なかった。
そこで医師より手術を勧められ、本年8月18日両足底筋膜炎手術のために当所入院となった。

4.手術の内容




5. 入院中の経過

H6年8月18日 入院

H6年8月20日 30分以上続けて歩くと両足底部に痛みあり。

H6年8月23日 手術の説明 (主治医より監督、本人へ)
経過も長いし、注射も効かないので、手術することにしました。 一度に両側とも手術します。 走り方のくせや骨の並び方で症状のでることが多いのですが、ご本人の場合は、そういうこともないので、 着地と蹴り上げの時に足底腱膜の負担が大きいためだと思われます。 手術しても前のようになるかは手術後のリハビリ次第です。 術後2カ月目でジョグ、術後3カ月目でランニングが普通ですが、 両側ともなので、もう少し時間がかかります。 一応年内にランニングが目安です。全速力で走れるようになるには1年くらいかかるでしょう。

H6年8月24日 ランニングする。 思ったより痛みなかったと。

H6年8月29日 ジョグすると痛み出現すると。

H6年8月31日 手術(両足底腱膜切離術)

術後1日目 車イス

術後2日目 栄養相談 1回目

術後6日目 歩行車を使用して軽く荷重をかけ始める。

術後8日目 両松葉杖で時々ゆっくり歩行している。 歩行時かかとに痛みがあるので、足部両側とも小指側のつま先で歩行している。

術後9日目 全抜糸 左足底部の痛み強いと (右の痛みを1とすると、左の痛みは10くらい)。

術後10日目 左足底部の方がやはり痛くて踵つけれない。 膝を伸ばした状態で、足指を背屈させるとすごく痛いと。

術後16日日 最近リハビリ後、食欲がない。 昼・夕の主食は、ほとんど食べていない。 体重は、2週間で2kg減少している。 栄養相談2回目 (主食をもう少し食べるようにと指導される)。

術後20日目 右側に松葉杖をついて片松葉杖歩行している。

術後21日目 全荷重歩行開始(本日から少しづつwalking開始)。 右足部は体重を乗せても特に問題ないが、 左足部は踵部に痛みがある。そこで、中足骨パッドとモビラート軟膏が処方される。

術後22日目 右足底部にも痛みが出現する。

術後24日目 中足骨パッドの効果は、はっきりしない。 エアロバイク以外は、中足骨パッド入りの靴を履くことがないので、 効果のほどはよくわからないと。

術後27日目 両足回内にて踵部内側痛あり。この症状が続いているため、回内予防の意味で足底板を作成することになる。

術後29日目 左足底部の痛みは、 右の痛みを1とすると、 2くらいと。
エレクトレート (針)にて、左踵部に痛みあり。 痛みが強かったので本人少し気にしている。

6.入院中のリハビリ

8月18日〜
○ 足首チューブ (4種類) 左右 各30回×5セット
○ 腹筋・背筋 各1000回
○ エアロバイク 100~120W 50分
○ 股関節チューブ (3種類) 30回×5セット
○ Mets レベル3  33周×1セット
○ オルソトロン(両足共) レベル5  20回×5セット
○ 歩行指導(足の着き方・ローリングなど)
○ Walking 20分~30分 (芝生にて)

8月24日〜
前週に追加分
○ジョグ 最長15分
○レッグカール 2枚  20回×5セット
○レッグエクステーション 2枚 20回×5セット

8月31日 手術

9月1日〜 頭痛のためリハビリ中断&体重計に乗れないため体重不明

術後5日目 リハビリ再開

術後1週目
○ 車イス(体育館周回)  右回り左回り交互 30分
○ チェストプレス 2枚×20回×5セット
○ 肘エクステーション 2枚×20回×5セット
◯ 腕ふり(0.75kg アレイ付き) 300回×10セット
○ Mets レベル33 33週×1セット
○ タオルギャザー タオル12枚分
〇 足指開き 5秒静止×10セット
○ 股関節チューブ(4種類) 30回×5セット
○ 腹筋背筋 1000回
○ 超音波治療 1日に2〜3回

術後12日目
メニュ追加分
○ バイブラ開始
〇 足首チューブ(2種類) 30回×3セット

術後2週目
メニュ追加分
○エアロバイク  90W20分から開始

術後16日目
エアロバイクは、平均1日50〜60分

術後3週目
メニュ追加分
○ CYBEX測定
○ 足首チュープ 5種目に

術後4週目
メニュ追加分
〇 足指そらし
○ カーフレイズ
○ タオルギャザー (左足部重点的に)

7. 入院中の体重と推定体脂肪率の推移


入院時の体重が60.3kg、 現在の体重は54.2kgで、 6週で体重は1kg減少した。
推定体脂肪率は手術前日が16.8%、 現在は13.8%と4週で3.0%減少した。
体脂肪量は、手術前日が9,78kg、 現在は7.47kg と 4週で、 2.31kg減少した。
9月2日の深代泰子先生の栄養相談では、「5ヶ月後に体重53kg、体脂肪率12%、体脂肪量6.36kgの達成を目標にしましょう」と計画がたてられた。 実際には1ヶ月で、ほぼこの値に限りなく近づいた。
減量ペースが早いように感じられたが、9月30日の栄養相談では、「1ヶ月に2〜4kgの体重の減少は、体脂肪量も同じように減少しているのであれば、 特に心配ない」とのことであった。ただ現在、「昼・夕の食事を、カロリーメイト数個ですましていることは、栄養のバランス上好ましくないので、昼食は、たとえカロリーメイト数個ですましたとしても、夕食だけは、他の選手と同じようにかもめレストランでご飯など食べられた方が良い」とのことであった。

※ この選手の生理について (長距離走の競技選手は、生理のない選手が多いと言われているので)
初潮は、高校2年生のときであった。生理は不順であったので、高校2年生、3年生、 大学1年生、2年生のときに婦人科受診している。ホルモンの注射も受けている。 現在、生理は、2〜3ヶ月に1回の割合である。

8.足底筋膜切離術後の荷重スケジュール

○ 片足底筋膜炎手術の場合

術後1日目 フットタッチ
術後1週目 1/3荷重
術後2週目 1/2荷重
術後3週目 全荷重

○ 両足底筋膜炎手術の場合

術後1日目 車イス
術後6日目 歩行車
術後8日目 両松葉杖歩行
術後20日目 片松葉杖歩行
術後21日目 全荷重

9. 考察

頑固な足底筋膜炎の症状は、針治療、足底板、ステロイド注射によっても良くなりませんでした。
足底筋膜炎を患ってから3年間、 練習はジョグ程度でしかできませんでした。
さすがに大学4年生のときには、もう陸上競技を断念しようかと思ったそうです。
しかし、現在の会社に陸上競技選手として採用されたこともあるので、もう一度陸上競技にトライしてみようという気持ちになったとのこと。
大学2年の夏以降、彼女は、陸上競技の実績を残せませんでしたが、それでも現在の会社に採用されたということは、彼女に大きな将来性を見込んだのでしょう。
彼女自身も現在その期待に応えようと一生懸命努力しています。
過去の足底筋膜炎で手術を受けた選手は、調査した3症例では、3例とも良くなっています。
彼女の場合もきっと良くなると思います。
来年の冬には、駅伝の選手として活躍していることでしょう。

旧(財)スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1994年9月
元 診療部 主任看護士 安藤秀樹

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