編集後記 1995年10月
● 今月25日に、世界ランキング72位のフェンシングの女性選手が入院してきました。彼女はアトランタオリンピックを目指して日々練習に明け暮れていましたが、今月17日の試合中に、怪我をしてしまいました。
当研究所を受診して、膝の前十字靱帯を損傷していたことが判明した時、彼女は泣いてしまいました。
来年3月にオリンピックの選考会があります。これに出場できないと、アトランタオリンピックに出場できなくなるのです。
医師は、何とかしてあげたいという気持ちになりました。
普段行っている腸脛靱帯による前十字靱帯再建手術では、4カ月後に迫る選考会に、とても間に合いません。そこで、人工靱帯と腸脛靱帯の両方を使用して再建する手術方法を考案しました。
問題は、手術後、早期復帰のために作製した靱帯にゆるみがでたり、再断裂したり、人工靭帯による異物反応による水症、感染を引き起こす可能性があるということです。
医師は手術を決行するか否か相当に悩みましたが、診療部長の賛成もあって、今月27日に手術を行いました。
現在彼女は、手術が終わって元気でいますが、今後発熱もなく無事に経過することを心から祈ります。
そして、選考会に間にあって、アトランタオリンピックに出場できたら、それは医師始め私たち看護婦にとって望外の喜びです。
● 入院選手とリハビリの先生とうまくいかない時があります。
例えば、「エアロバイクを漕ぐときは、ウインドブレーカーを着て下さい。 エアロバイクは10分間で終了して下さい」と指示
されると、ある選手は、「ウインドブレーカーを着てエアロバイクを漕いでもあまり意味がないのに・・・。 エアロバイクを10分間行っても、脂肪は燃焼しないのに・・・」と思って、リハビリの先生に不信感をいだいてしまうのです。
さらに同じようなことが重なったりして、この選手の心の内部でわだかまりが積もりつもると、反抗的な態度として表情に現れてしまいます。
リハビリの先生にとっては非常に扱いにくい選手になってしまうわけです。
この選手は、一人のリハビリの先生に信用がおけなくなると、別のリハビリの先生に同じことを質問して、確認をとっていたようです。
ある時、 「リハビリの先生との人間関係がまずくなってしまって、ここの施設では、リハビリが上手くやっていけそうにありません。 でも他にこのような施設はないし、どうしたら良いのでしょうか」と涙ぐまれて相談に来られたことがありました。
彼女自身も「言ってはいけないことをリハビリの先生に言うからいけない」 とかなり反省していました。
リハビリのチーフから、「彼女自身がいろいろな先生に質問して、いろいろな情報を得るのが問題であるから、今後は、窓口を一つにして対応したい」と自らこの選手の担当者になりました。
以後、チーフの対応が良かったので、この選手から苦痛の声が聞かれなくなりました。
今回の出来事で、リハビリの先生は、選手にリハビリを指示するときは、どうしてこのようなリハビリを指示するのかをきちんと説明する必要があると考えられたようです。
それにしてもどこの世界でも人間相手の仕事は大変ですよね。
旧 スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1955年10月
元 診療部 主任看護士 安藤秀樹
ナースセンターだより
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