スポ研ナースセンターだより


1. はじめに

左アキレス腱を痛めた男性長距離走選手の入院までの経過と入院中の経過をここに報告します。

2. 患者紹介

患者:19歳  男性
病名 : 左アキレス腱部分断裂、左足関節陳旧性捻挫
[スポーツ種目]
陸上 長距離走 5000m、 10000m
[スポーツレベル]
B (当所ナースセンター判定基準による)
[スポーツ歴]
小学生:野球とサッカー
中学生:サッカーとアイスホッケー
※  サッカーは部活。アイスホッケーは部活外
高校:陸上
現在:陸上
性格:気さくな感じ  優柔不断
身長:173cm  体重:60kg

3.受傷機転と当所入院までの経過

【左アキレス腱炎の場合】


【左足関節陳旧性捻挫の場合】


4.記録の変遷、練習内容、アキレス腱の症状などの経過


5.入院当初の所見

① 下肢のアライメント (踵骨、 脛骨、足関節)に左右差がある。 [SMDに左右差はない]

② 左足関節に不安定性がある。

① ②より左アキレス腱に負担がかかっていることが推測できる。
また他医にて数回ステロイド注射を受けて悪化している様子がみられる。
患者の主訴は、 左アキレス腱痛が中心である。二次的に左足関節部に疼痛がでている。

6. 治療計画

① テーピング、パッドにて下肢アライメントの修正を図る。

② テーピングにてアキレス腱痛の変化をみる。

③ 保存的療法で様子をみて効果がない場合には手術療法を考えてみる。

7.入院中の経過



8. 入院中のリハビリの内容

メッツ (懸垂で肩を痛めてからは行っていない)、 腕振り、エアロバイク、水泳、タオルギャザー、ゴムチューブトレーニング、ストレッチボード レッグカール、 レッグエクステーション、腹筋背筋、 超音波、 バイブラバス、 電気、 テーピング、ウォーキング、ジョグ、 3000m走など

9. 考察

中学生の時に痛めた左アキレス腱炎が、 高校を卒業してから同部位に痛みが出てきたことは、彼にとって不運でした。 もし痛みさえでなければ、今頃は素晴らしい記録をうちたてていたのかもしれません。

左アキレス腱を痛めた原因として、
① 社会人となってからトラックで走る場合にCCW (反時計回り) 方向一辺倒の練習に明け暮れていたこと。
②下肢のアライメントに左右差があったこと。
③ 足関節が堅かったこと。
などが考えられます。
① ② ③ が左アキレス腱に負担をかけたと思われます。

左アキレス腱の痛みを悪化させた原因として、
○ 社会人となってから、日毎に増すアキレス腱の痛みを知っていながらも、チームのハードな練習を続けていったことが考えられます。 従って、
① トラックで走る場合は、CCW (反時計回り) 方向ばかりではなく、 CW (時計回り) 方向の練習を取り入れる。

② テーピング、パッドなどで下肢のアライメントを修正して練習する

③ ストレッチボードなど足関節の柔軟性を高めるトレーニングを取り入れる。

④ 症状が出現したら、その時点で練習を休む勇気をもつこと。

などを実施していたら、 現在のように症状が悪化することはなかったのではないだろうかと思います。

当所入院当初での治療計画は、

① フォームのチェック。

② テーピング、 パッドをもちいて、下肢アライメントの修正を図る。

③左足関節の不安定性をテーピングにて解消することで、 アキレス腱の痛みの変化をみる。

④ ③にて効果がない場合は、 手術 (アキレス腱炎症瘢痕部切除) を考える。

入院中半ばにMRI検査を行ったところ、 ただのアキレス腱炎でないことが判明しました。それで治療方針は、アキレス腱再建手術を受けることが望ましいという考え方から、保存療法から手術療法に変わりました。ところが、本人は、手術したくないという気持ちが強く、 それならということで、3000mを走ってみましょうということになりました。もしそれで、アキレス腱に痛みが強まるようでしたら手術しましょう、もしそうでなければ、このまま保存療法で様子をみてゆきましょうということになりました。
それからというものの彼は必死だったように思います。朝早くからリハビリにいき、タオルギャザー、ストレッチボードなど一生懸命行っていました。
その甲斐あってか、 3000mを走り終えた直後では痛みが生じませんでした。 1年前には歩いているだけでも痛みがあったことを思うと、かなり症状が良くなりました。
最終的には手術をしないで退院することとなりました。
しかし、完治したわけではありません。
アキレス腱付着部下から2横指の箇所に圧痛があります。 無理をしたら痛みが増強するかもしれません。このまま治ってくれたら良いのにと思います。
退院時には、主治医より 「ここの研究所で学んだリハビリをメモして、会社に帰ってからでも忘れないように、ここで学んだリハビリを続けて下さい」とコメントがありました。
次回は7月20日に当所に受診に訪れます。
この時に症状がどのように変化しているのかが楽しみです。

スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1994年6月
診療部 主任看護士 安藤秀樹

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