編集後記 1996年12月
● 11月に当研究所に入院していたラグビー選手が、いったん当所を退院して、別の病院で椎間板ヘルニアの手術を受けました。
手術が終わって、当所に再入院してきた12月9日に、私は彼からなにげなく声を掛けられて、大変びっくりしました。
と言いますのは、 当所に入院していた1カ月間、寝たきりであった彼がスタスタと歩いていた姿がそこにあったからです。
私は、手術の劇的な効果に驚くとともに、「あの1カ月間の牽引治療は一体何だったんだろう? こんなことならもっと早く手術していれば良かったのに・・・」と思いました。
彼は、「本当に手術が成功したかどうかは、スポーツに復帰できてはじめて言えることです」と言いました。
日常生活なら文句なく復帰と言えますが、彼の目標は、2カ月後に行われる試合に出場することです。
筋肉隆々の大男たちがぶつかりあうタックルは、手術した腰に相当な負担がかかります。
ですから相当に腰回りの筋肉を鍛えないと復帰は無理だと思います。
しかも彼の目指すところは、全国レベルですから、これは本当に大変なことです。
現在、彼は2ヶ月後の試合に出場するために一生懸命トレーニングに励んでいます。
彼は、再入院した日に、私にこんなことも話してくれました。
「立って歩くという、こんなにも当たり前のことが、こんなにもありがたいことだとは知りませんでした。病気をしてしみじみとそのありがたさが分かりました」と。
彼の闘病生活は、とても辛かったと思います。
しかし、それは貴重な経験となって、きっとこれからの彼の人生に生きてくると思います。
彼の再デビューを楽しみに待ちたいと思います。
● 12月は、19床の病室を上手に回転するようにローテーションを組むのに大変苦労しました。
と言いますのは、病床回転率が低い前十字靱帯再建手術を受ける選手が6名もいたのに加え、数名の選手が緊急入院することになかったからです。
彼らは、どうしても入院して手術する必要があるとのことで、やむを得ず11月に前十字靱帯再建手術を受けた選手数名に、「急なことで誠に申し訳ありませんが、緊急に手術を必要とする選手が入院することになりましたので、〇日に退院していただけませんか」とお願いしました。
すると、選手たちは「入院前に手術後7週目で退院と聞いているのに、5週目で退院とはどういうことか。約束が違う」と大変立腹されました。
選手たちの困る内容は、主に保険の問題と当所でのリハビリが継続できなくなることでした。
彼ら、彼女らの言い分は、「前十字靱帯再建手術を受けるのに待たされるだけ待たされて、退院の時だけ早くしろと言われるのはあんまりだ。急に退院と言われるのは困る。どうして急に入院患者を入れる。ここの施設は、こういう無情なことを言う施設なんですか」などです。
ある入院選手からは「退院して合宿所に行っても、お金が高いから困る! 困る!」と涙ぐまれてせがまれたときには、私は本当に困りました。
そこで診療部長に相談しました所、「緊急入院の選手は、手術したら翌日に退院していただく。ある一人の選手は入院させないで外来で手術して、当日に帰っていただく」ということになりました。
それで、「いったんは退院」とお願いした選手数名は、そのまま入院が継続できるようになりました。
しかし、それでも病室がうまく回らない場合もあって、その場合は、井戸田病院に転院していただいたり、合宿所に行っていただきました。
一応この件に関しては落着したのですが、 とてもつらい経験でした。
今後このようなことが生じないために、「前十字靱帯再建手術を受ける選手には術前検査時に、「病室の空き具合の関係で5週目で退院していただくこともあります」と説明して了承を得ておく。12月には、前十字靭帯再建手術は極力入れないということで対処していくことになりました。
旧 スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1996年12月
元 診療部 主任看護士 安藤秀樹
ナースセンターだより
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