スポ研ナースセンターだより

1. はじめに
当所開所以来、両膝前十字靭帯(以下ACLと略記)損傷は9例。 その内4例が両膝の再建手術を受けている。
今回、 両膝のACL再建手術を受けて、スポーツ復帰を果たしたスキー選手の1症例を報告する。

2. 患者紹介
[患 者]○・○ 15歳 (受傷時点) 女性
[スポーツ種目]:スキー (アルペン)
[スポーツレベル]B (当所ナースセンター判定基準による) [国体強化選手]
[スポーツ歴]
小学生 スキー
中学生 スキー・ソフトボール
高校生 スキー
[競技成績歷]
'89年度 全国スキー大会 スラローム 5位
'90年度 山形県高校総体 スラローム 優勝
'90年度 山形県高校総体 GS (ジャイアンツ・スラローム) 優勝
'90年度 国体予選 GS 2位

[性 格]
おおらか。くよくよしない。大胆。ものおじしない。

[身長]160cm
[体重] 60kg
[利き手]右
[踏切足]右
[キック足]右

3. 受傷機転と当所入院までの経過
【右膝ACL損傷】
平成3年1月26日 体育のスキー実習中、 一般スキーヤーを避けようとして、 左方向ヘターンしたら、段差の下に落ちて転倒。スキー板外れずに受傷。 pop音なし。 疼痛なし。転倒後スキー続ける。
実習後、右膝不安定感あり。 鍼灸院受診。 「靭帯損傷疑い」と言われる。 蔵王スキー診療所受診。 関節穿刺を受ける。血性あり。「内側側副靭帯損
傷と ACL損傷疑」と診断される。 学校の先生の紹介で、
平成3年1月28日当所受診。
「ACL損傷疑」と診断され、手術目的にて入院となる。

【左膝ACL損傷】
平成4年3月25日 高校選抜試合中に転倒。
平成4年5月17日 右ショートターンで、左足 toe-out強制され、さらにストップかけようとしてtoe-inになった際に受傷。
(厳密には、3月25日受傷か5月17日受傷かはっきりしない)。
pop音なし。 疼痛かなりあり。 歩行困難となる。
受傷5日後、 山形某病院受診。 左膝関節穿刺受ける。 約50ml 血性あり。 平成4年5月27日 当所受診。 「ACL損傷疑」 と診断される。
平成5年6月24日手術目的にて入院となる。






7. 考察
1回目の右膝ACL損傷時は、 MCL (内側側副靭帯) も損傷していた。従って、右膝ACL再建手術後、膝内側に痛みが持続していた。特に膝屈曲時に疼痛が強かった。
痛みのためかROM制限があり、思うようにROMが改善されなかった。
術後6週目でもROMは、27°〜103°と悪く、この時、 主治医より、 「退院までに屈曲120° までいくように」とハッパを掛けられる。
術後9週目にROM屈曲が主治医の約束の120°を越えて退院となった。 ROMが改善したのは、主治医から強く励まされて本人が努力したためであったと思われる。

2回目に受傷した左膝ACL損傷の時は、手術時、 LM (外側半月板) 後節部に小さな損傷があったが、 半分程治癒していたので、 特に処置は行わなかった。
しかし、 退院4ヵ月後、スキーを滑り始めた頃から、左膝にロッキング症状が出現した。
平成5年2月8日当所に受診に訪れた時では、「LM後節部に損傷の疑いあり」 と診断されている。
ACL再建術後、問題となるのは、体重の増加である。
ACL再建術後の女性選手は全員定期的に体脂肪率を測定している。
体脂肪率の値は、筋肉と脂肪との関わりを把握するのに良い指標となる。
この選手の場合、 1回目の入院時には、体脂肪率が2%、 2回目の入院時では、体脂肪率が6%減少している。
最も2回目の入院時の体脂肪率は1回目の入院時と比較するとかなり高い。 しかし、 体重は1回目、2回目の入院時も58kg前後で大幅な違いはない。 体脂肪率の測定誤差も考えられる。
今後、より簡易でより正確な体脂肪率の測定が望まれる。

8. おわりに
この選手の人柄は大胆であっけらかんであった。
多くの選手は、医師から、ACL損傷と言われて手術を勧められると、「手術するほどのケガをしてしまった」とショックを受ける。
しかし、この選手は違った。
「手術なんかよりも、手術することで、インターハイや国体に出場できなくなることの方が、ショックが大きかった」 と言うのである。
当所で、右膝のACL再建手術を受け、 退院後、地道にトレーニングを積んだ。
そして、術後9ヵ月目にスポーツ復帰を果たした。
スキー滑走中、 何回も転倒したが、ケガへの恐怖感はなかったと言う。
ケガをする以前のような成績は収められなかったものの、インターハイ、国体に出場するなど活躍した。

しかし、活躍したのはわずか4ヵ月間で、 その後、不運にも今度は、反対膝のACLを損傷してしまった。
普通の人なら、 立ち直れなくなる程のショックを受けるのではないだろうかと思うが、 彼女は、「また、 やっちゃったよ。 お金がかかるな。手術やりましょうか」 と思っただけだと言う。
このあっけらかんとした性格には驚いてしまう。
前回と同様に当所で今度は、左膝ACL再建手術を受けた後、 術後 5.5ヵ月でスポーツ復帰を果たした。 ケガへの恐怖感はなかった。
それにしても、 たった5.5ヵ月目でスポーツ復帰するのは時期的に早すぎるのではないかと心配になる。
通常、ACL再建手術の場合、 術後8ヵ月目 〜 1年目がスポーツ復帰の目安とされている。
手術した日から試合までの期間が短かったことと本人の試合復帰への意欲が人並み以上に強かったことによるための早期復帰である。
しかし、 それにしても、受傷を恐れない彼女のたくましさには脱帽である。

(財)スポーツ医・科学研究所
ナースセンターだより1993年5月
診療部 主任看護士 安藤秀樹

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当所でのACL再建手術後のリハビリテーションプログラム


当所ACL再建手術後の膝関節可動域予定表の推移



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